トップへ トップ > 特集 > 平成中村座歌舞伎公演『法界坊』
タイトル チラシ画像

Part1:平成中村座概要
平成中村座の由来・演目「法界坊」あらすじ・主要出演者紹介他
Part2:歌舞伎鑑賞入門
歌舞伎の歴史・用語解説・面白さ
Part3:芝居小屋ができるまで
江戸時代の小屋・浅草の小屋・平成中村座の小屋ができるまで・小屋にかける職人魂
Part4:「法界坊」解説
演目の歴史・見所・音楽他
Part5:公演鑑賞レポート
Part6:平成中村座番外編

Part5

11月5日に松竹さまの計らいで私ども(Thanks! 一二三さん)はついに「平成中村座」に…
笑いが耐えなかったです。
そんな感想、載せてみました!

感想

 これほど笑いの多い、また一体感のある歌舞伎は初めてです。
江戸時代を彷彿とさせる小屋仕立てですから、空間的にも観客と役者の距離が近いのは当然です。
が、なにより観客と役者の体感温度が同じというのが素晴らしいと思いました。
私たち観客には「伝統芸能を見せていただいている」という感じがないばかりか、「法界坊」という芝居世界を役者と一緒になって作り上げているような錯覚さえありました。
 「客いじり」や「楽屋オチ」は芸の世界では下と見られますが、客側にとっては本当は楽しいのです。
おそらく江戸時代もそうだったと思います。当時の役者はあらゆる手を使って観客を喜ばせ、驚かせていたのでしょう。
観るのも人間、演じるのも人間だと思わせておいて、ここぞというところではどーんとブチかます。私たちは大喜びです。
 また「お大尽席」という、ネーミングからして座りたいような座りたくないような一等席がありますが、芝居中でも幕間でも役者たちがあからさまにヨイショします。
一等席で恥ずかしそうにしている客たちを見て、他の客がまた笑う。
江戸時代ではこの席に上級武士や豪商の家族などが座って、同じように扱われていたのかなと思い、権威を笑いで引きずりおろす芝居小屋のアナーキーさにゾクゾクしました。
 筋書きによると、この「法界坊」は初演の台本をもとに練り上げたものと書いてあります。
5分に一度は大笑いする芝居です。私は福助が好きなのですが、最初はどこに彼がいるのかわかりませんでした。
それもそのはずで、いつもの女形ではなく、要助という立役だったのです。
20年ぶりの立役だそうで、この弱々しい二枚目ぶりも見所です。
なにしろ、世話物では小股の切れ上がった、気の強い、いい女を演じていますからね。そのギャップがちょっとびっくりするほどすごい。
 勘九郎の法界坊がまた、いいのです。金と色欲にまみれ、そのためには人殺しも辞さないような悪徳坊主なのに、憎めないばかりかカワイイのです。
失礼ながら、あのずんぐりむっくりとした小柄な体型がそう思わせるのかもしれません。法界坊の一挙手一投足がおかしくて目が離せませんでした。
 悪党はもう一人いて、番頭の正八(片岡亀蔵)なのですが、彼のおくみ(中村扇雀)に言い寄る場面が本当にものすごくいやらしくて、気色悪くて最高ですね。
おくみだけでなく、私も「しぇ〜〜〜〜」と叫びたくなるほどでした。このリアルさ猥雑さは、洗練された今の歌舞伎にはありません。
 歌舞伎座や国立劇場の、まるで絵巻のような美しい舞台も魅力的ですが、人間のエネルギーを感じさせるのはこの芝居小屋、「中村座」しかないと思います。
川江一二三

無断転載をお断りします!

copyright